プレカットは建設業界にとって不可欠な存在であり、日本の木造軸組構法のおよそ9割で使用されるほど、広く普及している木材のカット・加工方法のひとつです。
プレカットとは?
プレカットとは事前に(プレ)切断(カット)するという意味です。木造住宅建築で使用する構造木材を、あらかじめ工場などで原材料を切削したり、接合部に加工を施したりしておくことです。
従来の木造軸組工法では、木工職人が部材に墨付けを施し、ノミやカンナを用いて、現場で切断から加工までのすべてを行い、組み立てていました。(伝統工法や在来工法)。
しかし、工場でプレカット加工された構造木材を用いれば上記作業を省略できます。
プレカット加工された構造木材はミリ単位の精度でカットされているため、精度が高く品質も安定しているため、施工効率アップや工期短縮、コスト低減といった効果が期待できるでしょう。
プレカット加工は入力されたデータをもとに長さや幅、高さなど高い精度で木造住宅の継手や仕口、梁を加工する新しい技術です。
プレカット加工とは
設計図面データをCADに入力後、工作機械を起動するCAMへ転送し、構造材や合板、集成材などを加工。
加工された部材は現場で施工しやすいよう接合箇所に番号が付けられ、検査に合格した製品だけが出荷されます。
プレカット工法の特徴
プレカット工法とは事前に工場の機械で加工された構造木材を、現場で組み上げて建てていく工法です。
工事現場で大工職人が部材を切削し組んでいく従来の方法と比べて、プレカット工法には次のような特徴があります。
- 工事期間の短縮化
- 作業効率の向上
- 施工コストの低減
- 品質の均一化
- 作業精度の向上
- 材料ロス・時間的ロスなどのムダを削減
さらに加工の際にでる木屑を現場に持ち込むことがないので環境にも優しいと言えるでしょう。
工場で加工される建築部材は品質が高く、製品ごとに強度の確認ができるため、精度の高い構造計算が可能です。
このようにプレカット工法は、
- 資材のばらつきやミスがない
- ムダなく安定した品質
- 効率的かつ高精度
といった木造建築を実現するための工法になります。
プレカットの普及率
図は木造軸組構法におけるプレカット率の推移(1089年〜2018年)を示しています。
プレカット加工は1990年ごろから建設現場で導入を開始。
導入当初の1989年はわずか7%とプレカット率は低水準でした。
しかし、10年後の1999年には48%、2018年には93%とプレカット率は急激な伸びをみせました。
現在の建設現場ではプレカット加工を用いた建築が一般的で広く普及しています。
プレカット業界の将来
建築業界において木材加工の9割を占めるほど主流となりましたが、今後プレカット業界はどのように変化していくのでしょうか。
大規模工場が生産の大半を占める
プレカットの生産は大規模工場が中心となるでしょう。
農林水産省の「木材流通構造調査」によると、販売金額が5億円を超えた工場は、平成13年が205工場だったのに対し、平成28は411工場とおよそ2倍にまでなりました。
今後、受注・生産の大半は大規模工場がメインとなり、中小工場は減少していくでしょう。
AIが自動で構造設計
これまで人の手で作成していた図面やプレカットの連携データを、AIが自動で行うようになるでしょう。
2020年8月にホームエクスプレス構造設計が工務店やハウスメーカー向けに「構造エクスプレス」というシステムをリリースしました。
これまで手作業で行っていた業務をAIが自動作成します。
AIが自動作成する業務
- 構造計算書
- 基礎・構造伏図
- プレカットCAD連携データ
プレカットの加工自体は2日ほどでできますが、発注から納品までに3週間~1.5か月かかっていました。
しかし、AIを導入することで最短3営業日での納品が可能になります。
プレカットにおけるAIシステムの開発・導入はまだまだ広がっていません。
これまで人の手で作業していた業務をAIが行うようになれば、工期の短縮はもちろん、人手不足の問題も解消されるでしょう。
プレカット工法のメリット
プレカット工法のメリットは次の5つです。
工期の短縮化
事前に建築部材を機械で加工して組み上げていくプレカット工法は、効率的に作業を進められるため、工期短縮化のメリットがあります。
従来は大工職人が設計図をみて墨付けし、継手や仕口などを手刻みで加工したあと組み上げていました。家の大きさにもよりますが、すべて手作業の場合、加工を終えるまでに少なくとも数か月はかかっていました。
しかし、プレカット工法であれば数日間で完了できます。
さらに引き渡しも早くできるため、施主と工務店の双方にとっても有益な取り組みと言えるでしょう。
コストの削減
大工職人による墨出しや手刻みの加工には1ヶ月ほど必要です。
工期が長期化するだけでなく、技能を持つ職人の確保や雇うための人件費も発生します。
プレカット工法は専門工場に依頼するため、上記コストの削減が可能です。
プレカット専門工場では、
- プレカットCAD/CAMシステムにより全自動で加工(人件費の削減)
- コンピューター制御で加工(材料のムダを排除・廃棄材の削減)
- 端材は他の現場で再利用(廃材のリサイクル)
などのコスト削減メリットがあります。
また、現場で加工しないため、廃材の処分費を削減できます。
現場で作業する場所も不要となるため、スペースの確保にも役立つでしょう。
発生材をなくせる
専門工場の機械で加工されるプレカット工法は建設現場内の発生材を削減できます。
発生材とは工事進行とともに生まれるゴミのことです。
発生材は産業廃棄物になるため、収集運搬業者が引き取って専門処理業者が処分する必要があり、費用も侮れません。
プレカット工法は現場での切削がないので発生材が生まれず、廃材処分費用を抑えられます。
安定供給
プレカット工法では、品質の高い木材を安定して供給できます。
現場で木材を加工する場合、その日の天候や職人の技術レベルによって、木材の品質に影響を与えてしまうことがありました。
しかし、プレカット工法はコンピュータで切断・加工を行うため、バラつきのない高品質な木材の安定供給が可能となります。
耐久性アップ
プレカットの加工段階で防腐防蟻処理を施すことで、木材の耐久性を向上させられます。
腐朽菌やシロアリは木材を劣化させてしまうため防腐防蟻剤を注入して対策を打つことがあります。これらの処理も手作業で行うより、工場でまとめて行うほうが効率的でしょう。
注入方法は以下の2つです。
塗布処理
認定された薬剤を規定濃度に希釈して木材の表面に薬剤を塗布や吹き付けたりする方法
加圧注入処理
薬剤を高い圧力でかけて浸透させる方法
薬剤の持続効果は塗布処理は約5年間、加圧注入処理の場合10年以上の効果があります。
定期的な点検と塗り直しにより、さらに耐久性アップが期待できます。
まとめ
プレカット工法は多くの工務店やハウスメーカーで導入され、建設業界にとって必要不可欠な工法となっています。
工期短縮やコスト削減、品質の安定化など多くのメリットを享受できるため、この先もプレカット工法は多くの現場で普及するでしょう。
しかし、複雑かつ高い精度の加工となると、大工職人の手技・技能にはまだ及びません。
また、職人の持つ技術の承継ができなくなるといった危惧もあります。
プレカットや職人技術の特徴を理解したうえで、現場に合った技術活用を検討しましょう。